タルティーン司令部戦略課室長日誌

ここだけで読める、戦略課の秘話その他。

2013年07月08日の記事

モンスターズ・ユニバーシティ

 

『モンスターズ・ユニバーシティ』を観てきました。

 

モンスターズ・ユニバーシティ
http://www.disney.co.jp/monsters-university/

 

本作は2001年に公開された『モンスターズ・インク』の続編であり、前日譚です。

 

ですが、私の印象は

これはPIXARが翻案した“ウサギとカメ”だ!でした。

 

『モンスターズ・インク』の主人公にして、その舞台であるモンスターズ株式会社の怖がらせ屋部門きっての社員サリー。そんな彼に指示を出す技師兼マネージャー役のマイク
正直言ってマイクはモンスターとしては怖くないキャラクターです。そんな彼が何故にサリーのマネージメント役に付いているのか。
その理由が本作『モンスターズ・ユニバーシティ』で描かれています。

 

 

さて、じつを言うと本作には前作『モンスターズ・インク』との矛盾点が存在します。
前日譚を描く際にもっとも厄介なことが、この矛盾なく物語を作るという点です。前作を知る私としては、前作の設定の中には前日譚を作る上で難しい部分が少なくないのではないか、それをどう克服し矛盾のない物語にするのか、その点にも注目をしていただけに、これは少々残念でした。

 

この前作との矛盾点。パンフレットによると、脚本と監督を務めるダン・スキャンロン(Dan Scanlon)をはじめとした製作に関わるスタッフは、企画当初から気付いていたようです。
具体的にはどんな矛盾かと言いうと、前作序盤にあるマイクの「You've been jealous of my good looks since the fourth grade, pal.(小4の時から俺のカッコ良さに嫉妬していたじゃんか、お前)」という台詞。日本語では「ハイハイ、ひがむなよ、ルックスでは負けるからって」なので気付く人は少ないでしょうけれどもね。

 

前作『モンスターズ・インク』の序盤、サリーとマイクのやりとり。

 

この設定ですと、人は小学校の時点で出会っているということになります。『モンスターズ・ユニバーシティ』は大学で同室(後述)になるという話ですので、辻褄が合いませんね。

 

しかし製作側は、本作で描くべきはそんな枝葉末節な設定ではないということで、忘れることにしたようです。

 

「ところで何でシオンさんは
 前作を英語版で観たの?

 

いえ、もともとCG技術の研究の為にDVDを購入しました。
基本的に映画DVDを買えば、吹き替え版、字幕版、原語版を全て観る主義なので、知っていたんですね。
ちなみに前述のように研究目的で購入したこともあって、全編コマ送りでも観ていますファー(毛の表現)に感動したことをよく覚えています。

 

なお、当然と言えば当然ですが、前作は10年以上も昔の作品になります。
CG技術は当時の最高レベルのものではありましたが、今の目で(後に再リリースされた版ではなく2001年版オリジナルの)『モンスターズ・インク』を観るとやはりキツい。反射マテリアルシェーダも鈍いし、影もにじみ過ぎ。10年の年月とは、かくも技術レベルの違いが出るものなのかと思わずにはいられません。

 

 

話を本作『モンスターズ・ユニバーシティ』に戻しましょう。
先程、これはウサギとカメの翻案だと評しましたが、サリーは優秀な父を持ち、身体能力的にその技能を受け継いでいる、いわばモンスター界のサラブレッドとして登場します。そんなサリーは自らの家系とその能力に甘え、勉学を怠けてしまいます。
一方、本作の主人公であるマイクはそうしたものを何も持たない、言ってみればいわゆる「落ちこぼれ」。

 

「あなたは怖くない。怖がらせ屋になれっこない」と言い放つ学長。

 

かくしてマイクは「いかにして怖がらせることができるか」を人一倍…もとい、モンスター一倍、学ぼうと必死になります。
ほら、この構図。イソップ寓話の「ウサギとカメ」そのものでしょう?

 

怖くないという旨で学部を追放させられるマイク
そして、怖がらせ方が単調という理由で同じく学部から追い出されるサリー
紆余曲折あってマイクは他の「落ちこぼれ」連中と手を結び「ウーズマ・カッパ」なるチームを結成。サリーもこれに加わるのですが…。

 

がんばればできる”をそのまま綺麗事で描かない点が本作の優れたところです。マイクも含めて「落ちこぼれ」連中は見た目の段階ですでに怖くない。しかも性格がまた怖がらせ屋に向いていない。サリーは焦燥感に苛まれていきます。
しかしマイクは諦めない。メンバーに指示を出し、トレーニングのメニューを考え、東奔西走します。マイクのマネージャーとしての気質はこの頃に確立していた訳ですね。多少ネタバレになりますが、『モンスターズ・インク』でもそうであるように、マイク自身は怖がらせ屋としては大成できません。ですが、彼はもとから物事を良い方向に解釈する性格であることもあって、そんなことには大して頓着せず、プロデュースしていくというベクトルを見出していくのです。

 

かように本作はひじょうに寓話的な内容であり、逆に言うと前作のようなワクワク感は少なめです。そうしたことを踏まえると、少々年齢層を高めに設定した作品という気がしてきます。
こと、数か月前に公開された『シュガー・ラッシュ』が子どもも大人も楽しめる内容であったこともあって、個人的には今作の評価はやや厳しくなってしまいます。
もっとも、ラストのどんでん返しはとても素晴らしいですし、良作であることには違いありません。

 

 

以下、完全にネタバレになります。

 

 

ウーズマ・カッパ」のリーダーであり、マネージャー役であるマイクの本領発揮を見たのが“遠足”のシーンです。
怖がらせ大会」で勝ち進むも、その風体と性格から馬鹿にされる「ウーズマ・カッパ」のメンバーたち。彼らはがっかりし、身の程を知ったかのように諦めの境地に到ります。
ここでマイクの考えたことがモンスターズ株式会社への見学遠足。それもアポイント無しの無断で立ち入るという危険な行為。

 

モンスターズ株式会社に侵入し、仕事の様子を覗き込む「ウーズマ・カッパ」の面々。

 

そこまでして彼がメンバーに見せたかったもの。それはモンスターズ株式会社での怖がらせ屋エリート達の様子でした。
怖がらせ屋のトップ達に何か共通点は無いのか。その答えは「無い」、つまり「皆それぞれが違い、その違いを武器にしている」ということだったのです。
会社への不法侵入は発覚し、逃亡することになりますが、これは結果として団結心を生み出しました。
大学では決して教わることの無い、いくつものことを学ぶに到る。その全てが当初からの目論見ではなかったとは言え、マイクのプロデューサーたる真骨頂を見た気がしました。

 

 

その後も「怖がらせ大会」を勝ち進み、ついに決勝戦。全学生の前での怖がらせ実技演習で、しかし事件は起きます。
学長も何も関係ない、自分の力を出し切れとマイクに言うサリー。しかしそのサリーも、実はマイクを信じておらず、怖がらせシミュレータチートを細工。マイクの設定を甘めにしていました。
結果、「ウーズマ・カッパ」は優勝するのですが、そこは有能なマネージャーたる不幸か、マイクは大会終了後にこれを見抜き、それを仕組んだのがサリーであることを突き止めます。

 

最早サリーも何も信用できない。自分の力を試すために、マイクのとった行動。それは実際に人間界で怖がらせる実演を行うという自殺に近い選択でした。
ここで、モンスターにとって人間の子どもは極めて有害という設定が重いものとなってくる訳ですね。失敗は死を意味する。それを賭してもなお自らを試さねばならなかった。マイクはそれほど精神的に行き止まりにあったのです。

 

そしてマイクはそこで徹底的な絶望を味わいます。子ども達に怖がられないどころか「面白い」と言われ、さらに人間の大人達に追われる身となってしまう。これまでの全てを否定され、何の希望も無くなったマイク
一方、大学側ではマイクが単身、一切の許可なく教室に立ち入り、しかもドアを使って人間界へと行ったことで大騒動となります。一連の原因は自分にあると、サリーは周囲を押し切りドアに立ち入り、マイクを追います。

 

ここからのどんでん返しが非常にすばらしいです。
これ以上の事件が起きることを防ぐために学長ドアの電源を停止。これによりマイクサリーはモンスター界に戻ることができなくなります。
迫る人間の大人たち。ここでマイクのとった手は、大人たちを怖がらせるという前代未聞の方法。恐怖のエネルギーによって、こちらから電源を入れてしまい、ドアを開けられるようにしようということでした。
尻ごみをするサリーに指示を出し、ホラー映画張りの演出で大人たちを震え上がらせ、その絶叫は室内すべてのボンベを満タンにしてもなお収まらず、弾け飛ばすほどのエネルギーに到ったのです。

 

ボンベの開発者である学長でさえ想定していなかった出来事。

 

人間界から帰還するサリーに、学長は「どうやったのか」と訊きますが、サリーは「彼に訊いてくれ」とマイクに視線をやります。
怖がらせたのは確かにサリーかもしれない。しかしそれはサリーだけでは成しえなかった奇跡だった。彼はその奇跡を目のあたりにし、自ら体験したことで、最早マイクを信用せずにはいられなくなっていたのです。
そうした意味で、サリーとマイクの二人三脚が誕生した瞬間と言える場面かもしれません。

 

 

ともあれモンスター界に戻ることのできた人でしたが、大学始まって以来の不祥事と大騒動に、退学を免れることはなりませんでした。
その事実は覆りませんでしたが、しかし学長はこの一件でマイクを認め、これからも誰かを驚かせて欲しいと言います。
この辺りに、ひじょうにオトナ向けの作品という気がします。本音と建前。自らの価値観に誤りがあったことを認め、マイクの存在意義を見出した気がしてきた学長でしたが、そんな彼女の権限で規則を曲げることは出来ない。飽く迄も建前で動く社会が、モンスター界でにも同じようにあったのです。

 

 

さて、この後の展開は、中盤で読めてしまったのが少々残念ではありました。

 

「そんな安直なラストだったの?

 

う〜ん…、勘の良い人ならば「これは伏線だ」と気付くでしょうし、映画好きにも見破る人は多いのではという気がするのですよね。
とどのつまり『ガリバー旅行記』と同じなんです。

 

『ガリバー旅行記』(アメリカ、2010年、ロブ・レターマン監督)

 

この“郵便係”という設定…というか伏線。どうなんでしょう。アメリカでは郵便係って“そういうキーワード”なのでしょうかね。その辺りには通じていないので、いまひとつ判りません…。

 

 

一方で、思いっきり意表を突かれたこともありました。

 

完全に予告編にはミスリードされました。

 

「最高の親友がこのドアの向こうに…!!」

 

ガチャッ。

 

「うわわわわっっ!!」

 

「!?」

 

「最高だろ? サリーだよろしく」

 

そう、これがミスリードであるというのは些細なことのようで、実は結構大きなネタバレになるので、最後のほうで書くことにしたのです。
本作をご覧になった方はお判りのように、最初、マイクが同室になるのは『モンスターズ・インク』で敵役として登場するランディです。
しかし本作『モンスターズ・ユニバーシティ』では当初、ランディはごく普通のイイ奴として登場します。

 

サリーの代わりに「怖がらせ大会」優勝候補チーム「ロアー」に入り、ことあるごとに学部を追放されたマイクサリーに対してライバル心を燃やし、それはいつしか憎しみのような感情へと変わっていきました。不幸にも彼は周囲のメンバーや、競争心、焦燥感から、いわゆるダークサイドへと転落していったのです
ともすれば脇役として見られてしまう今作のランディですが、もうひとつの寓話的存在として彼というキャラクターがあるように思います
見過ごすのではなく、自らはランディになってはいないだろうか。そんなことも振り返りつつ観ることが出来れば、大人向け作品としての『モンスターズ・ユニバーシティ』をより意味のあるものとして観賞できるのではと思うのです。

 

 

最後に、エンドロールではモンスター達がトレーディングカードとして登場します。
これは本編にも台詞の中で出てきたカードなのですが、単なる伏線回収や昨今のトレカゲームを受けての演出であるばかりでは無く、前作『モンスターズ・インク』との対比でもあるんですね。
今回『モンスターズ・ユニバーシティ』を観て、改めて『モンスターズ・インク』を観直したのですが、『モンスターズ・インク』ではカードのようにドアの絵がぱらぱらとまかれたり並べられたりといった演出から始まります。もともとこれはドアがキーワードである作品というだけではなく、古風なホラー映画にインスパイアされた演出でしたが、ここからさらにインスパイアされたものが今作のエンドロールという訳です。
今一度、観直してみると、他にも新たな発見があるかもしれませんね。

 

 

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