タルティーン司令部戦略課室長日誌

ここだけで読める、戦略課の秘話その他。

2011年10月22日の記事

「花は?」っていうと「きれい」っていう。

 

花をきれいだと思わない子どもたち
http://getnews.jp/archives/129157
http://anond.hatelabo.jp/touch/20110711193536

 

ハンゲ友だちのブログから知ったこの記事ですが…、一見してあまり関係の無さそうな人工知能について書いてみたいと思います。今回のブログカテゴリが「パソコン/インターネット」になっているのは、その為です。

 

 

私が小学2年の頃に、家にパソコンが導入されました。
今のように電源を入れたらアプリケーションアイコンが並んでいて、すぐにゲームが出来るような代物では無く、既存のソフトウェアを動かすならば、いちいちフロッピーカセットテープ(こんな媒体自体が既に過去の遺物ですね^^)でロードしなければならない時代です。
むしろ、基本は自分でプログラムを組んでソフトを作る。電源を入れると[コマンドプロンプト]みたいな真っ黒な画面に英字が表示されて、何か入力してやらないとウンともスンとも言いません。

 

いつ頃かは忘れましたが(さすがに小2では無いですが)、『ウォーゲーム』という映画を観て、人工知能というものを知る事になりました。
映画の内容は他の映画紹介サイトなりDVDなりで確認して頂くとして、この物語には、驚くべき対話能力を持つ人工知能ジョシュア」が登場します。

 

“コンニチハ、フォルケンキョウジュ”

 

主人公デビッドとジョシュアの対話シーン。

 

映画の社会的、哲学的なテーマを理解するには早かったのですが、当時の私の関心は、この人工知能に注がれました。
いえ、そんな高度なIT技術的知的好奇心ではなく、もっと子どもっぽい純粋な発想、「コンピュータとお喋りできたらなんて楽しそうなんだろう!」というのが原点です。

 

言うまでもなく、これは最初から失敗します。
当時の自分には、会話文章から単語を抽出しつつ内容を解釈するなどという概念自体がまだありませんでした。
それも当然。何しろ当時のパソコンは、まだ漢字すらまともに表示できません。漢字が出ないのだから変換辞書なんてモノがある筈も無い
変換辞書が無い。しかも自分は国語で「五段活用」を習ったか、まだ習っていないか、そんな頃。文章解析のアルゴリズムという発想に辿り着くには、あまりにも高い壁がありました。

 

 

その一方で、ゲーム開発の先駆者達は「マエ ススメ」「トビラ アケロ」といった具合に、言葉でコマンドを入力していく方法を編み出していました。
まぁ実のところ、これは基本概念としてはプログラミング言語と同じなのですが、英語というモノを知らない当時の自分には「PRINT "Hello world"」が「画面にHello worldと書け」という英文による命令とは気付いていません。「命令語」という言葉は知っているのに、自然言語文法としての「命令形」とは、頭の中でリンクしていないんですね。
ぴゅう太日本語BASIC(※)を知るのがもっと早ければ、この辺りに気付けたのでしょうか…。

 

※ぴゅう太という機種の日本語BASIC言語は
  英語ではなく日本語で「カケ」や「イケ」といった命令になっていました。
  基本的に英語による命令語を日本語に置換しただけの仕様でしたが
  それでも日本人には馴染みの自然言語由来であるだけに
  直感的なプログラム言語だったのです。

 

ともあれ、「マエ ススメ」「トビラ アケロ」という入力の仕方は普及していたため、単語ごとに区切るというやり方は思い付きました。
要するに空白文字ごとに文字列を抽出すれば、会話文章をとりあえずは解析するアルゴリズムが作れる。
五段活用」等はとりあえず置いておき、その設計で「ジョシュアもどき」を作ろうと再開しました。

 

 

でも、やっぱり頓挫します。(笑)

 

いえね、映画にあるように「コンニチワ」と打ち込んで「コンニチワ」と返事をさせるのは簡単なんですよ。

 

 「アソホ゛ウ」と打ち込んだら「アソホ゛ウ」と返す。
 「ハ゛カ」と打ち込んだら「ハ゛カ」と返す。
 こだまでしょうか、いいえコンピュータでさえ。(笑)

 

 

 

 

冗談はさておき、「こう問い掛けたら、こう返事をさせる」というのは、対応一覧さえ作れば出来るんです。
その一覧を作るのにどのくらいの手間が掛かるかどうか…というのは別として、仕組み自体は何も難しくはありません。プログラムをかじった程度で、入門者でも誰にでも簡単に作れるのです。

 

 

ちなみにこれを哲学用語で「中国語の部屋」と呼びます。

 

あなたは中国語がわかりますか?
わからない? それは宜しい。ではこの部屋に入って下さい。
部屋には中国語会話の応答例集が網羅されています。漢字がわからない? 大丈夫、どういうカラクリかは知りませんが、誰でも引けるような辞書になっています。(笑)
部屋のドアを閉めますね。ドアの隙間から、中国人が紙を入れてきます。その紙で、その人と筆談を進めて下さい。もちろんそこには中国語で書かれています。
対応の仕方は応答例集を調べながら行うことになります。では、どうぞ。

 

以上が「中国語の部屋」の概要です。
仮に本当にの応答例が網羅されているならば、これで表面上は対話をしていることになります。部屋の中の人は応答例集というマニュアルに従って動いているだけですが、部屋のそとの人にはそんな事は判りません。
ただ、これって表面上では対話をしているように見えたとしても、実際は対話では無いんですね。部屋の中の人の意思はまったく存在しない。
当時の私は、まだ「中国語の部屋」などというモノは知りませんでしたが、「ジョシュアもどき」を作る中でこの事に気付いてしまったのです。

 

「どんな事をしても、
 仮に自分が技術系の大学に進み、
 人工知能の頂点を極めたとしても、
 このパソコンが自分の意思を持つことは
 絶対に無い!

 

この結論は情報処理系の理屈で言えば当たり前なのですが、当時は「いつかロボットも心を持つ」と信じられていた時代ですから、幼心にショックですよ、これ。

 

※これは飽く迄も現在のコンピュータの概念、
  特にチュリーング(Turing Machine)と呼ばれる原理に於ける話であって、
  将来的にまったく異なる思想のコンピュータや
  新概念のアルゴリズムが生まれるならば
  「心を持つ」ことはあるのかもしれません。

 

 

さて、冒頭の記事に話を戻します。
花を見せて「きれいだ」と答える「ジョシュアもどき」を作ることは可能です。花を見せて「花である」と認識させる仕組みは現在の技術でできるところにあります。「花」であれば「きれいだ」と答えさせればいい。これは簡単な処理系です。
でも、それは「きれいだ」と答えているだけです。「ジョシュアもどき」は「きれいだ」とは言えても、「花」を「きれい」だと「感じること」は出来ません

 

ここで問題が浮上します。
「だから?」という子は「花をきれいだ」と思わないのか、それとも言わないのか。

 

1.

  思っているが言わない
2.

  思わないから言わない
3.

  思わないし言わない

 

これは3つとも、すべて意味が違います。
2.」と「3.」は一見して似たものに感じますが、「言わない理由」が本質的に違うことに注意してください。

 

逆に「花をきれいだ」と言う場合は、

 

A.

  思っているから言う
B.

  思わないが言う
C.

  思うし、それとは別に言う

 

この3つになるわけですね。

 

「「C.」がよくわからない

 

B.」と「C.」は、花を見たときの感想は違いますが、「言う理由」が同じなんです。

 

もう一度、「中国語の部屋」に入っていただきましょう。
おや、暫くするとドアの隙間から紙が入ってきました。紙には美しい花の絵と、何やら中国語の文章が書いてあります。
あなたは絵を見て「きれいだ」と感じましたが、文章のほうはまったく意味がわかりません。ともあれ応答例集に基づいて返事を書きました。
その返事は、書いているあなた自身には意味がわかりませんでしたが、実は中国語で「この花の絵、とてもきれいね」という意味でした

 

「それは哲学に於ける思考実験の話でしょう?
 「C.」の場合は、本当にそう思っているんだし、
 自分でそう答えているんだから違うでしょ

 

私が敢えて「C.」を提示したのは、くだんの記事で「将来学校で「花を見たらきれいだと感じるのが一般的です」などと教えなきゃいけないのかもしれない。」とあったからです。

 

a.
 「花を見たらきれいだと感じるのが一般的」という定義があり、

  故に「花をきれい」だと思わねばならない。
b.
 「花を見たらきれいだと感じるのが一般的」という定義があり、

  故に「花はきれいだ」と言わねばならない。
c.
 「花はきれいだ」と感じるから

 「花を見たらきれいだと感じるのが一般的」という定義が作られる。
d.
 「花はきれいだ」と言うために

 「花を見たらきれいだと感じるのが一般的」という定義が作られる。

 

私は「c.」が正論だと思います。
勘違いして欲しくないのは「花はきれいだと感じるべきだから…」では無い、ということ。

 

a.」も「b.」も「d.」も、プログラムでしか無い。「ジョシュアもどき」なんです。

 

 

“その状況では
 「もしかしてジョシュア人間を変だと思うのは自分だけ?」
 なんて悩みもあるかもしれない。
 そんなことを考えたらなんだか怖くなった。”

 

 

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