日常的戯言

のんびりハンゲ生活記。 FW クアトル鯖:弓狩人:2cmqx

自作小説/ポエムの記事

無題

そこは一面の花畑だった。
日差しが暖かく気持ちよい。どうやらうたた寝をしてしまっていたようだ。
まだ何となく眠い気がする。もう一眠りしようとしたとき、頭の上から声がした。

「ねえ、こんなところで寝てないで僕と遊ぼうよ」

小学生くらいの、見たことも無い少年だった。
周りには誰も居ない。私に話しかけているのは明白だ。

「キミは誰?」

そう言おうとして気がついた。
自分も少年と同じくらいの年齢になっていることに。
いったいどういうことなんだろう。

困惑している私をよそに、少年は一人しゃべり始める。

「うーん、そうだなあ…鬼ごっこしよう。僕が鬼をやるから、十数える間に逃げてね」

…え?
私は遊ぶとも一言も言っていない。
しかし、少年はかまわずに数え始める。

「い〜ち…に〜…さ〜ん…」

何となく逃げなくてはいけないような気がして、私はその場から走り出した。
十秒という短い時間でそうそう遠くへは逃げられない。しかも、体は小学生である。

「…十!行くよ−!」

少年が追いかけてくる。たぶんあっさり捕まるだろう。
しかし、いくら待っても少年は私を捕まえようとしない。こちらが走る速度を上げれば向こうも上げ、落とせば落とす。そんな絶妙の距離感をずっと保ち続けている。
…何がしたいのだろう。

不思議に思って立ち止まると、少年は追いついてきて私の腕を掴んだ。

「捕まえた。次はキミが鬼だよ」

私はしぶしぶ鬼役を引き受ける。
十数えて少年を追いかける。ただそれだけのことだ。

ただそれだけのことが、延々続いた。少年は捕まらない。
相変わらず絶妙な距離感を保ち逃げ続ける。

…どれくらい追いかけっこをしたのか、もう体はくたくたになっていた。
私はその場にへたり込んだ。

「…ずるいよ…全然捕まって…くれないじゃん…」

息を切らせながらつぶやく。
ふと頭の上から声がした。

「もうおしまい?」

驚いて顔を上げると、そこには少年の顔があった。
にっこりと嬉しそうに笑っている。

…今なら捕まえられるかもしれない。
手を伸ばせば、捕まえられる場所に少年は居る。
私はゆっくり手を伸ばす。少年は逃げない。
あと少しで手を掴めそうになったとき。

『捕まえてはダメ』

私の中で誰かが警告を発した。
誰?どうして?どういうこと?

『捕まえたら取り返しの付かないことになる。だから、ダメ』

私は腕を伸ばしたまま、硬直した。どうしたらいいかわからない。
それを見た少年はにっこり笑った。

「僕もうそろそろ帰らなきゃ。遊んでくれて有難う、お姉さん」

そう言って少年は風の中に消えていった。
私は少女からいつもの私に戻っていた。
そして再び眠気に襲われ、花畑の中で眠り込んでしまった…。



再び目を開けると、そこは花畑では無かった。
白い天井、白い壁。
心音を示す心電図の電子音。
腕からは管が伸び、その先は点滴液につながっている。

私は唐突に思い出した。
そうだ…事故にあったのだ。どのくらい眠っていたのだろう。

結局、あの少年は誰だったのだろう。そして、止めてくれたのは誰だったのか。
彼の手を掴んでいたら、どうなっていたのだろう…。


END

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